東京地方裁判所 昭和28年(ワ)10085号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、現状変更禁止を条件として被告に本件建物を賃貸したが、被告が無断で裏側に木造波形トタン葺建坪一坪五合の建増をしたとして、期間を定めてその取毀の催告並びに条件附契約解除の意思表示をし、右期間の経過によつて賃貸借契約が終了したと主張して、増築部分の収去と建物明渡を求めた。被告は現状変更禁止の特約があつたことを否認し、本件増築は原告の承諾を得て行つたと主張するほか、本件増築は被告が本件建物を店舗として使用する上において必要やむを得ないもので、かつ建物の使用価値を倍加したことでもあるから、この程度の工事を口実にして契約を解除することは権利の濫用であると抗争した。
判決の認定した事実によると、本件賃貸借契約締結の際、被告の申出により、被告が本件建物を化粧品店として使用するに適するように店舗内部の改造工事を行い、これに伴つて内部の階段のつけかえをすることについて原告の承諾があり、現状変更の禁止ということは特に話題に上らなかつたのであるが、更に増築の点についてまでの承諾は与えられていなかつた。そこで判決は、権利濫用の主張について次のように判断して原告の請求を棄却している。曰く、
「……によれば、被告は本件建物の店舗の部分を広く使用するために店舗の右側にあつた階段と便所を店舗の背後に移動させ、この移転を可能にするために本件の建増をしたものであつて、店舗全部を有効に使用するには被告がしたように後方へ階段を移動するのが唯一最良の方法であり、これにより店舗の使用は便利になり、建物の価値が増加したこと、しかも本件の増築は一坪五合のトタン葺のもので、賃借建物によせかけて作つてあり、甚しく建物を毀損するようなものでなく、何時でも容易に原状に回復し得る程度のもので、本件建物の使用目的である店舗としての用途に何等の変更を加えたものでないのは勿論、むしろこれを便利なように拡張したものであつて、客観的にみれば、本件増築によつて原告は利益を得こそすれ、格別の損失を蒙るものでないことが認められる。原告本人の供述によつても、借家管理上無断増築は困るというだけのことであつて、他に格別の支障が生ずるような事情は認められない。かような事情を考え合せれば、本件の建増はいわゆる無断増築で賃借人としての保管義務に違反するところがないとはいえないが、建増をなすに至つた事情、その規模程度、それが当事者双方に与える影響等からみて、被告に解除事由を構成する不信行為があつたものとすることは妥当を欠く、と考える。原告がこれをとらえて契約解除を云々することは権利の濫用として許されないものであるといわざるを得ない。」